ドアがノックされ、体が凍りついた。
誰だろう。
クルルの乙女に用事がある人など、あの兄弟の他にいるだろうか。
しかし、二人とも別れたばかりだ。



(……もしかして……)


脳裏に過ったのは、キース・マクライナー。
一度の会話で分かる。彼は危険だ。


「ジェイダ? 」


けれども、ドア越しに聞こえるのは別の声。


「……っ、ロイ……? 」


ロイだ。
彼の声だと認識した途端、すぐさまドアを開けていた。


「今、いいかな」


飛びつかんばかりの勢いで、前に出た体を引き戻す。
そんなジェイダを見て、ロイは僅かに口角を上げる。


「……うん」


怒ってくれてもいいのに。
さっきみたいに、声を張り上げて責めてもいいのに。
微笑んでいるはずのその表情の方が、ずっと悲しい。


「どうぞ」


二人分のお茶を淹れると、ジンはそれ以上何も言わず、下がってしまった。
カップがテーブルに置かれたことで、どうにか二人とも席には就いたけれど、何て言っていいか分からない。
仕方なく、ぼんやりと湯気を見つめる。
でも、それも長くはもたずにふと顔を上げれば、ロイも同じようにカップを見ていた。


「……冷めちゃうね」


クスリと笑って、取っ手に指を掛ける。
その優雅な仕草とは対照的に、ジェイダはパッとカップを持つと、その両手で包みこんだ。


「来てくれてありがとう」


何か言わなくては。
そう思うあまり、咄嗟にそんなことが口を突いた。
唐突すぎただろうか、ロイは無言のままだ。


「明日、会いに行こうと思っていたの。……会ってくれるか、心配だった」


弁明しようとすると、ロイが首を振って止めた。


「……お礼なんて言わないでよ。僕は君に、何度謝っても足りないっていうのに」


そう言うロイは辛そうで……泣きそうですらあった。