「つまり、彼女には、しばらくトスティータに滞在してもらいたい。ゆっくり僕を……この国を見てもらって、ゆくゆくは受け入れてくれたらと思っている」


ふいに愛しそうに見つめられ、こんな時なのにパッと下を向いてしまう。


「なるほど。その様子だと、随分時間が要るようだが。しかし、困ったな。クルルには痛いばかりだ。その間、祈り子を奪われてしまうのだから」


――見返りはあるのか。


当然のことである。
どんなに友好的な国々であろうと、自国の安全が最優先だ。
それどころか一触即発の間柄では、それ相応の対価が必要になる。


「北の動向も気になる今、我々が事を荒げるべきではない。貴殿もご存知のはずだ」


ずっと聞き流しているようにも見えたアルフレッドが、突如言葉を発した。


「……それはそうだが。では、黙って渇いていけと? 」

「そうではない。早めに手を組んでおけば、有事の際は互いに利があると言っている。それに、貴殿ほどの方がそんな小娘一人が欠けただけで何に困る? 次期クルル王」


アルフレッドに鋭い眼光で応えながら、キャシディはややゆっくりと瞬きをした。
どうすれば優位に事が進むのか、思案しているのだろう。


(何か、もうひと押しあれば)


とはいえ、あまりトスティータに負担がかかる交渉はできない。
弱みを見せれば、クルルの王子はすぐに突いてくる。


(……って私……どちらの心配をしているの? )


いつの間にか、いやもしかしたら最初から、トスティータの視点で二人を見てはいなかっただろうか。
この兄弟の考えには賛同している。
争いと平和ならば、平和がいいに決まっているからだ。それでも――。


『お前はどちらの人間だ? 』


自らそう問いながらも、彷徨う目はロイに辿り着く。


(ロイ……)


ぎゅっと唇を噛む姿を見ると、胸が痛い。
国を守りながら、どこまで交渉を進めるかで悩んでいるのだ。