翡翠の森




「ところでさ」


失ったものを思えば、どうしたって悲しい。
涙を振り切るように明るく、ロイが言った。


「この森の名前、変えた方がいいと思うんだ。だって、もう“禁断”じゃないんだから」


これからは、誰もが自由にここを訪ねることができるのだ。


「そうね。でも、何がいいかな……」

「うーん……。あ、せっかくだし、君の名前をつけたら? ジェイダの森。……君、頑張ってくれたからさ」


それは恥ずかしいやら、恐れ多いやら。
第一、当たり前のことをしただけだし、それに。


「ダメよ。だってこの森は、誰のものでもないんだもの」


みんなの森だ。
トスティータの人も、クルルの人も。
人間だけではなく、動物や植物だって生きている。
誰もが許可など必要とせず、来たい時に好きなだけ、笑い合って過ごせる場所。


「……そうだね。じゃあ……」


――ジェイド――

聞き慣れない単語に、首を傾げる。


「知ってる? ここよりずっと東の方に、そんな名前の石があるって。それはすごく綺麗な緑色で……もしかすると、こんな色なのかも」


生命力溢れた、美しい緑色。
それを眩しそうに見つめる彼の瞳も、同じように綺麗だ。


「君の名前にも似てるし。ダメ? 」


それも少しくすぐったいが、ジェイダは賛成した。
見たこともない石の名前が、この森に似合うと思えたのだ。キラキラ輝く新緑に、ぴったりだと。


「でさ。みんなが来やすいように、何か考えた方がいいと思うんだよね。たとえば……この木の下でキスすると、永遠に幸せになれるとか」

「……ありがちすぎて、胡散臭いぞ」


ロイの提案に、レジーが難色を示す。


「えー、いいと思うけどな。でも確かに、実例がないと説得力ないから……」


兄の前だというのに、ロイが近づいてくる。
避けることができず、もう少しで唇が重なろうという時――。