翡翠の森




・・・


少ない日陰を求め、とある軒先へ逃げ込んだ。
今日も暑い。
ふと息を吐いて、屋根の下から青空を見上げる。皆はどうしているだろう――それは本心ではあるが、同時に大きな嘘でもある。
そんな自分に首を振るのを見ていたかのように突風が吹き、ジェイダはあわあわとスカートを押さえた。


(み、見えてない……はず。でも……)


いい風だ。
まだまだ暑さは厳しいけれど、クルルでこんな風は珍しい。
心なしか過ごしやすくなった気がするのは、いいように考えすぎだろうか。


(ううん、そんなことない)


きっと、彼が頑張っているのを伝えてくれたのだ。


「丸見えで、何してんの? 」


友人に言われて確認すると、押さえたはずのスカートの裾が捲れていた。


「きゃあ!! 」

「……色気ないわね。いつまで経っても、男がいないせい! 」


またその話。
ジェイダは大きな溜め息を吐いた。


「私には好きな人も、恋人もいるの! 」

「だって、もう半年過ぎたわよ! こんなに音沙汰なしなんて、むこうで可愛いお姫様でも見つけたんじゃないの? 」


心配からだと分かってはいるが、その言葉は胸にグサリと突き刺さる。


「音沙汰がない訳じゃないわ。手紙だって…」

「それ、本当にあの王子様が書いたの? お付きの人とかじゃなくて」


これまで彼の字を見たことがない。
ただ、彼の言葉だと信じているだけ。
彼の身分なら、素晴らしい縁談が尽きることはないだろう。何より、彼自身が素敵な人だ。
見初められたい女の子なんて、たくさん――……。


「……ごめん。でも、心配なの。私ね、あんたを紹介してほしいって頼まれたんだ。今度、一回だけでも会ってみない? 気晴らしになるかも」


気持ちは嬉しい。
ジェイダだって、正直不安になることはある。
その度にロイの声を、表情を思い出そうとするが、月日が経つほどそれも難しくなっていく。

でも……。


「ごめんね。私、やっぱり……」

「だーめ。その子は彼氏もちどころか、婚約者もちなんだから」


靴音が聞こえたのに。
大好きな声のはずなのに、とても振り返ることができない。


「約束通り、君を拐いにきたよ。お姫様」