翡翠の森


(これだから、人間は。どいつもこいつも変わり映えしない……)


『トスティータは涼しいのではなく、寒いのよ。それに多分、あちらも同じことを思っているわ』


バッサリ切り捨てるような、はっきりとした口調。
驚いて目を遣ると、そこには若い女性が立っていた。


『何だよ、ジェマ。お前、どっちの味方なんだ』

『敵も味方もないでしょう。間違いは間違い。それだけよ』

『……そんなこと言ってると、ここで花なんか売れなくなるぞ』


可愛い女性に注意されて憤慨したのか、男は酷い言葉を吐き去っていく。


『頼まれても売らないわ。花が可哀想だもの!! 』


みっともなく背を向ける男に、彼女も負けじと言い返した。


(……なに、この子)


見た目は、ただの美しい花売りだ。
興奮が冷めてきたのか頬から赤みが引き、表情が曇る。
黒い瞳から涙が溢れた時、いきなり拍手が聞こえてきた。


『やるじゃないか。いや、まったくその通り』


頬を濡らしたまま振り向けば、男がにこにこと手を叩いている。


『……からかわないで』


馬鹿にされたと思ったのか、ジェマと呼ばれた女性はムッとして踵を返す。


『からかってなんかないさ。僕もそう思っていたから。……君はすごいね』