翡翠の森


視界が開け、ジェイダはようやく息を吐いた。


「……っ、はあ、は……」


転がるように森を出れば、強い日差しに打たれて俯いてしまう。


(……こんなに近いのに、遠すぎるよ)


涙が頬を滑り落ちていく。
乾いた地面に映る影は、ひどく小さく見えた。


「……馬鹿。そんなに泣くくらいなら、何で戻ってきた」


上から声が降ってきて見上げると、兄が困り顔で微笑んでいる。


「お前は祈り子なんかじゃない。ただのガキだ。全部忘れて、惚れた男と過ごすのも……悪くはなかっただろ」

引っ張り上げてくれる手は、力強い。
もがき苦しんできたはずの兄は、優しく頼もしかった。


「……ううん。もちろん、私は祈り子じゃないけど」


こんなところで踞っていたのが恥ずかしくて、ジェイダはぐいっと涙を拭う。


「それを言うなら、兄さんだってただの男の人だわ」

「そりゃ、そうだけど」


空を仰げば、今日も抜けるように高く、青い。
別れてきたばかりのアルフレッド、ジン、デレク。彼らの瞳の色が思い浮かぶ。


「みんな、そう。何の肩書きも、押しつけられる役目もない。そんな私たちだから……」


ああ、もう探してしまう。
この空のどの部分が、最も近い色だろうかと。


「変えられる。もちろん、最高にいい意味で!! 」


あの、少し薄い青が似ているかも。
恋しくて堪らない、アイスブルーの色に。


「……そうだな」


レジーも空を見上げ、程なくしてジェイダの頭を軽く叩いた。


「ほら、行くぞ。ったく、何で怪我してるんだ。昔からトロい奴だな」

「ひどーい」


他愛もない話をしながら、歩き出す。
これは離れていくのではない。
近づいているのだ。

――二人が再び出逢う、あの森へ。