翡翠の森


人としての願いと、女としての想いが心の中で戦い続けている。
今はまだ、二つが両立することは困難だけれど。


「……うん」


だから、約束。
また必ず、近いうちに。

―― 一緒にこの森に来よう。


「その時は、何が何でも」


髪を、瞳を、肌を。

彼の全ての色を、目に焼きつけておきたいのに。
瞼が落ちてきたと思ったら、もう涙で何も見えない。


「離さない」


(……だから、もうちょっとだけ)


時を惜しむような口づけに、委ねていたかった。

どうにか熱を冷ました後は、二人とも無言だった。
背を向けて、一歩一歩離れていく。

ロイの足音がする。
大股で雑に歩く感じは、まるで知らない人のものだ。
だっていつもは、歩幅も速度も合わせてくれていて――。


「……っ」


ジェイダは走りだした。

小枝が足を掠めた気がしたが、どうでもいい。
これ以上何も思い出さないうちに、森を抜けてしまいたかった。


(ロイ、ロイ……!! )


出てくるのは、彼の名前だけ。
それを消すのは嫌だから、頭の中で何度も繰り返した。

彼と過ごした日々を振り返るには、まだ早すぎる。