「今日は、いつにも増して暑いわねぇ」

「ほんと」

町に出たとたん、毎日聞いている世間話が聞こえ、ジェイダは髪を掻きむしった。
何度櫛を通してもうねる黒髪が、余計にふわりと広がる。


「いつも通りだわ」


まわりの人々と同じ褐色の肌は、太陽の光など慣れっこだ。
わざとジェイダに聞かせるように言われた気がしたのは、心が荒れているからだろうか。

このままじゃ、無理矢理祈り子にさせられてしまう。
生贄になるのではない。
ただ、祈るだけだ。
酷い言い草だが、それらしく真似事をしていれば許されるのかもしれない。
それでも、ジェイダは嫌だった。


「他に方法があるはずよ」

『たとえば? 』


頭の中でもう一度訊かれ、怒りが絶望に変わりそうになる。

と、その時。


「あ……」

足元に一匹の子リスがいた。
緑は減り、今では動物を見るのも珍しい。
それも、こんな街中で。


「どうしたの? こんなところで」


食料を探して来たのだろうか。
野生にしては警戒心がなく、近寄ってもくるんとした目で見上げてくる。


「あ、待って! 」


手を伸ばした瞬間、逃げてしまいそうになる。
ジェイダは慌てて、子リスを追った。