翡翠の森


「誓って申し上げますが、私たちにその意思はない。全く逆のものです」


トスティータとクルル。
不足している物資の交換には、互いに利こそあれ損することはないように思う。
それは、ジェイダが勉強不足なだけなのか。


「それから、兄からの伝言ですが。万一、北やその他の脅威にクルルが晒された場合は、いつでも協力する準備があると」


驚いてロイを見ると、彼は安心させるように小さく頷いた。

キースを筆頭に、反対意見だらけだったに違いない。
それをここまで押し進めることが、できたのだとしたら――。


(二人とも……)


万が一にも上手くいかなかったら……恐らくただでは済まない。
愚政と罵られ、王座を追いやられるか。
それとも、最悪――。


(成功させるの!! )


失敗に終わることなど、ロイもアルフレッドも考えていないのだ。
それなのに、側にいる自分がそんな心配をしてどうなる?


「しかし、それはあまりに性急ではありませんか。物資や通貨の行き来は別として、長年交流が途絶えていた国を助け、守るとは」


それもまた、自然な気持ちなのかもしれない。
けれども、こうも思えないものだろうか?

今はお互い壁があるから、見えないだけで。
すぐそこで困っている人が目に入れば、きっと体は動くものだとも。

「最初は利害の一致で始まるのでしょう。それでもそうして助け合ううちに、人の心も近づけると。…そう、信じさせて下さい」


甘い理想で終わるかどうか、まだ試してもいないのだ。
何も、この大地を統一しようというのではない。

元々ひとつだったのだとしても、今ではもう違う。
普段意識していなくても、別の国では不思議な風習に見えたりするだろう。
それぞれの文化が根付いているのだし、それはそれで大切にしていかなくてはいけない。

消し合ったりなどせず、尊重し合っていけないものだろうか。


「何度も繰り返して恐縮ですが。どうか、ご決断を。それから…祈り子なんてものの撤廃を」


トスティータにしてみれば、他国の制度など関係ない。
自分のみならず、今後選ばれる女性のことも彼は憂いでくれる。