「そうか」
キャシディが顎で示すと、男が一人列を離れた。一足先に、クルル王に知らせに向かったのだ。
すぐ後ろにいるジンやデレクからも、緊張が伝わってきたが、振り返りはしない。
(進んでるんだ)
俯かないように、意識して前を見据えると気づく。
視線の先に映るのは、長い廊下でもキャシディの背中でもない。
並んで歩いていたはずの、ロイの肩。
(いつも、そうだ)
いつだって、一歩前を歩いて庇ってくれる。
男だから、女だからということはないが、正直に言えば、好きな人からの女の子扱いは嬉しいものだ。
(だから、前を見ていられるの)
どんなに現実が厳しくても。
簡単には好転してくれなくても。
逃げていたって始まらない。
何かを始めるには、まずは現状を直視しなければならない。
けれどもロイは、先に受けとめてくれるのだ。
そして、ちょっとだけ隠そうとする。
真実を知らせながら、あまりに辛い部分はジェイダの目に入らないように。
でも――。
「ロイ」
突然この場で話しかけられ、彼が立ち止まっている隙に、タタッと駆け寄る。
(一緒に見させて)
ここは彼にとって、初めて降り立つ土地。
その点、自分は生まれ育った国なのだから。
(だから、ここはリードしたっていいでしょう? )
口には出さなかったが、想いが伝わったらしい。
苦笑しつつも、優しい視線が注がれている。
何だか、甘えてくる恋人に呆れながらも、内心喜んでいるような顔だった。
キャシディが鼻を鳴らさなければ、まるでこれからデートに出かけるのだと、錯覚してしまいそうなくらいに。



