翡翠の森


「言ってくれたら……」

「こんな遅くに、女の子を連れ出すのもどうかと思ってさ。昼間は諦めたけど、たまたま会えたら誘おうって。……けど、やっぱり偶然じゃなかったな」


どういうことだ。
彼の言うとおり、ドアを開けたらたまたまロイが――。


「その様子だと、また夢でも見た? ジンに叱られても、飛び出して行きたくなるような」


確かにまた、ロイの夢を見た。
何かに起こされて、止めるのを半ば無理を言って外に出たのも事実だ。


「だろうね。ごめん。起こしちゃったね」


(ううん、そうじゃない)


もう、どちらでも同じことだし、はっきりしていることは。


(起きてよかった)


彼が、そこにいたのだから。


「よかったら、出かけない? 」


すぐさま承諾して、彼の前に出ようとしてハタと気づく。
今の今まで眠っていたのだから、当然寝巻き姿だ。
幸い、一歩前にジンがいるので、そう見えてはいないはず……。


「そのままじゃ、また風邪を引くよ」


考えていることがバレたのか、ロイに言われて恥ずかしい。


「……人の恋路の邪魔をしたくはないのですが。お二人だけで行かせる訳には参りません」


妙な雰囲気に、ジンが頬を掻きながら言った。


「そう? 」

「面白そうではありますがね。危険性がゼロではない限り、黙ってお見送りはできないのです」


好き好んで、デートの付き添いなどしたいはずもない。
そもそも、ロイが一人でここにいること自体、おかしいのだ。


「それは大丈夫。残念ながら、二人きりじゃないからね」

「それはそうですが……」


(……え? )


驚いて辺りを見渡しても、ジェイダたち三人以外、姿はない。


「申し訳ありませんが、やはり心配です。ロイ様をお守りする者に、私などが口を出すのは無礼ですが。……それでも、心配なのです」


(ジン……)


ロイの身辺警護ということは、恐らく彼女よりも立場も実力も上なのだろう。
姿は見えないが、皆の話も耳に入っているに違いない。
咎められることを厭わず、身を案じてくれているのだ。