翡翠の森


(どうして、こんなに嬉しいのかしら)


同じ女性であるジンに、夜更けにドアを開けさせるのは心苦しいが、嫌な予感はしない。


(でも、私の予感なんて信用できないよね。やっぱり、私が自分で……)


そう思って手を伸ばすと、ペシッと叩かれてしまった。


「いったぁ……」

「大人しくしてなさいって、言ったで……」


ジンの声が途切れ、彼女越しに外を窺う。

ああ、だから。
だから、こんなにも――。


「……ロイ様」


気が逸って仕方なかったのだ。


(な、何で…!?)


偶然だ。
そう思えばいいだけなのに、ドキドキする胸が許してくれない。


「……どうしたの? こんな時間に」


一瞬だけ目を丸めたものの、ロイはそれほど驚いた様子もない。


「ジェイダ様が、外に出たいと言うので」


あれほど頼みこんでおきながら、部屋の中に戻ろうとするジェイダを、ジンが引っ張り出した。


「ロ、ロイこそ」


彼こそ、こんなところで一体何をしていたのだろう。


「……待ってた。あと少ししても出てこなかったら、一人で行こうと。偶然だね」


どうして。
約束をしていれば、待ちぼうけをくらうことも、偶然を装う必要もないのに。