翡翠の森


「ジェイダです。でも、私なんかに護衛なんて」


友人になれそうで嬉しい反面、自分のような小娘に付くなど、申し訳ない気がする。


「言いたくないけど……もしも僕が、君の家に行ったらどうする? 」


そう言われてハッとする。
禁断の森にいた彼を見て、思ったばかりではないか。

――不用心だと。


「そんなこと、僕もアルも許さない。でも……不穏分子がないとは言い切れないから」


(私が命を狙われる……? )


分かり切ったことだ。
ここは、お友達の家ではない。
敵国の領地であるばかりか、その王城なのだから。


「今はそれよりもさ。寒いでしょ ? 着替えておいでよ」


確かにこの寒さは、慣れない身にはかなり堪える。
何しろ、ロイの外套の下は薄いワンピースだけだ。


「着替えって……くしゅっ……」


言われて今更、寒さを感じ始めたらしい。
くしゃみが止まらなくなってしまった。


「ほら、あの中から好きなのを選んで。必要なら、ジンに手伝ってもらいなよ。残念だけど、僕は外で待ってるから」


その言葉とは全く逆に、ロイはマロを連れてさっさと出て行った。


恐る恐る指されたクローゼットを開くと、中は十分すぎる量の衣服で溢れている。


「……ロイって、どこまで本気なのかな」


どれも上品で、素敵なものばかり。
中にはプリンセスラインそのもののドレスもあり、乙女心をくすぐられずにはいられない。


「まあ、あの方のお心は読めませんから。でも、せっかくですからお召しになりますか? 」


正直になるなら、袖を通してみたい気持ちはある。
これを逃せば、一生着ることはないだろう。


「……ううん。これにします」


正直者の指がつまんでいたドレスを離し、代わりに選んだのはワンピースだ。
比較的大人しいデザインで、形だけは今着ているものに似ている。
温かさと質の良さは、比べるべくもなかったが。


「ロイ様にはああ言いましたが。やはり、女子はそういったものが好きなのですね」


ジンには悪いが、これを選んだのは別の理由からだ。
どの服も可愛く、女の子なら誰しも憧れるのかもしれない。
しかし、この一着以外はどれも裾が引きずるほど長い上に、それなりに重みもあった。


(あんなの着ていたら、何かあった時に逃げられない。ロイは何を考えてるんだろう)