翡翠の森


彼の王子様部分が薄れ、“ロイ”が色濃く出てきた時の喋り方。


「……な、なな何が!? 」

「え。……言っていい? 」


つい聞き返すと、ロイがわざとらしく目を見開いた。


「……ダメ」

「あはは。だね。その方がいいと思う。ジェイダには」


(……もう)


子供みたいに笑うロイが恨めしい一方、偽りのない表情を喜んでいる。


(でも……やっぱり)


好き。


「からかわないで! 」


頭に浮かんだことが恥ずかしくて、顔を背ける。


「二、三割ね。でも、八割方本気で言ってる」


それを証明するかのように、ロイの声音が低くなる。今ではもう、確かめるまでもない。
彼が、本音を漏らしたしるし。


「……ありがと」


少し迷った後、お礼を言うことにした。
彼の言う三割弱の冗談の中には、優しさが多分に含まれていると知っているから。
先程のことを引きずって、落ち込んでいても。
彼とこうして、話していても。
どちらにせよ、この車は国境を越え、禁断の森を抜けてクルルへと入るのだ。


(不安はいっぱいあるけど)


笑っていた方がいい。


「……お礼はいらないって言ったろ」


確かに言われた。
けれど、あの場にいたのがもし、自分一人だったなら。
もっとずっと、比べ物にならないくらい辛かった。


(ロイが側にいる。いつの間にか、それだけでこんなに救われてる)