踏まれそうになっている子供を、すんでのところで抱き締める。


「よかった……」


くるくるとカールした、ふわふわの金髪。
涙を一杯に溜めた、青い瞳。


(可愛い。本当、よかったぁぁ……)


「……っ、はぁ……ジェイダ! 」


人波にのまれ、彼もまた王子様らしからぬ酷い有り様だ。


「その子……」


一目見て、理由を察してくれたのだろう。
出立前からぐしゃぐしゃになった金糸を掻いたきり、それ以上は怒らないでくれた。


「泣いてたの。無事でよかったね」


幸運にも、涙で頬を濡らしている他は大丈夫そうだ。


「無事、ってね……」


ロイの眉根が寄り、首を傾げる。
すると、『もういいよ』というように、彼は苦笑いで終わらせてしまった。

「……っ、申し訳ありません……!! 」


悲鳴に似た声を上げたと同時に、女がロイの足元に伏した。


(お母さん……)


「謝罪もお礼も、向けられるのは僕じゃない。誰へ行うべきかなんて、貴女も分かっているはずだ」


ロイの気持ちは嬉しいが、そのどちらも無理に欲しいとは思わない。当然のことをしただけなのだ。


「どうか、立って下さい。……早く、抱っこしてあげて」


彼女の手を取ることも。
この子の涙を拭うことも。
どちらもまだ、許されない気がした。


「……どうして……」


(……“どうして”、理由なんているのかな)


「私にも、この子が可愛く見えます。皆さんと同じように」


(…また、会えたらいいな)


ただならぬ空気を感じとったのか、母親に抱かれて再び泣き出してしまった。


「……どうか、もう一度考えてみてくれ。彼女が本当に、あなたたちにとって敵なのかを」


感情を無理に殺した声が、静かに響く。


(……辛い思いさせちゃった)


それを受け、気まずそうに一人、また一人と家路に就く。

――まだ、こんなにも遠い。

予想はしていたが、実感してみれば怒りよりも悲しみの方が大きかった。


(でも、止まらない)


歩みを止めなければ、きっと辿り着く。
二人の信じる、あの未来へ。