翡翠の森


何が祈り子だ。
怖い顔をして敵対心丸出しでは、精霊も近寄ってはくれないに決まっている。


「行こっ……! 」


呆気に取られていた彼女たちだったが、何とも妙な顔で逃げてしまった。


(あ……仕方ない、かな)


急には溝は埋まらない。
二国の間に国交が生まれても、人の心が解けるにはより時間が必要なのだろう。


(でも、話せた。トスティータの女の子と)


ジンやエミリア以外で、これだけ会話が続いたのは初めてだ。

悪口も言われた。
姿を見て、怯えられたようでもあった。
でも、最後には。


(……変な子、って思われたみたい? )


「ふふっ」


笑うところではない。
けれども、怒りも失望も沸いてはこなかった。


(むしろ、嬉しいなんて変かしら)


今はそれでもいいと思える。


(ほんの、ちょっとずつでも……)


未来への一歩だ。
踏み出した足を見ながら、跳ねるように歩いていると、後ろに気配を感じた。


「ジェイダ様」


呼ばれて振り返れば、そこにはデレクが立っていた。


「デレクさん! 」


側まで駆け寄ると、なぜだか彼は面食らった顔をしている。


「どうかしましたか? 」


彼に呼ばれたと思ったが、空耳だっただろうか。


「……いえ。ジェイダ様こそ、どうなさったのです? ご機嫌ですな」

「はい! ここの女の子たちと、お話しできたんです。ちょっとだけだけど……。それに、デレクさんにも会えたし」


そういえば、ロイのいない時に会うのは珍しい。
だが、ジェイダからすれば、ロイの幼少時代の夢を見たりしたせいで、何だかずっと知っているような感覚だ。