翡翠の森

(それに、多分ロイだって……)


クルルに行けば、彼も同じような目に遭うだろう。
敵国の王子であるのだから、もっと酷いかもしれない。
笑顔で迎えてくれる日を信じてはいるが、残念なことにそれは今回ではない。


(側にいなくたって、一人じゃない。一緒に戦ってる)


互いの国と、ではない。
それぞれが伝えられてきた、悲しいしがらみとだ。


「どうしてああ、平気で居座っていられるのかしら」

「アルバート様の目に留まったからでしょう」

「でもそれも、長くもちはしないわ。気まぐれな方だもの」


少し離れたところから聞こえてきた、大きなひそひそ話に苦笑する。


「そんなに離れて話さなくても、私、皆さんに危害を加えたりしません」


(……そうよ。私、間違ってた)


少し前なら、頭に血が上って睨みつけていた。
そのくせ、足早に通り過ぎ――逃げたのだ。


「なっ……」


話しかけられたことに驚き、彼女たちが凍りつく。


「それにロ……アルバート様は、確かに気まぐれに見えたり、ふざけた感じに映るかもしれないけど。本当は芯の強い人だわ」


(大丈夫、怖くないよ。私たち、何も変わらない。ただの女の子)


「……っ、そんなこと、なぜ来たばかりの貴女に言われなくてはいけないのですか? 」


そのうちの一人が、怯えながらもそう言い返してきた。
彼女の表情を、ジェイダはとても責める気にはならなかった。――身に覚えがあるからだ。

「そうですね。私も知りたいです。私が来る前の、彼のこと」


(こんな顔……きっと、私もしてたのね)