翡翠の森




・・・



ロイとデレクがそんな会話をする、少し前のこと。


「ふう……撒いた……かな? 」


辺りを窺いながら、ジェイダは怪しい一人言を漏らした。


『ジン、私出掛けてくるから! 』


心配させては悪いので一応そう声をかけてみるが、既にジェイダは走る準備に入っている。


『えっ、待って、ジェイダ! 』

『大丈夫だから! 』

『あっ、もう! 私は貴女の……』


バタン。
ジンの台詞を待たずに、ドアを閉めた。


『こらー! 待ちなさい、ジェイダ!! 』


……が、最近ではジンの方も慣れてきたらしい。


(げっ。追ってきてる……!? )


いや、もちろん有り難い。
任務であろうとも、彼女は本当に心配してくれているのだ。


(でも……ごめんなさいっ……! )


心の中で謝りながら、ジェイダは全速力で駆け出したのだった。

何と言っても、ジンは兵として経験を積んでいる。
それこそ全力で走らなければ、逃亡は不可能だ。


「はあ……」


彼女の姿が見えないのを確めると、ジェイダは立ち止まって息を整えた。


(……ごめんね。でも、ちょっとだけ)


一人になりたかった。
いや、正確に言えば、少し違う。
今度はいつ戻れるとも知れないこの城を、歩いてみたかったのだ。誰にも守られず、自分の足で。
本当は外にも出てみたいが、さすがにそれは迷惑が過ぎるだろうし。


(でも、だから見えることがあると思うの。ロイやみんな庇ってくれていては、見えない何かが)


それは、辛いものかもしれない。
傷ついて、泣きたくなるものかもしれない。
だとしても……だからこそ、見ておかなくてはいけないと思えて仕方がないのだ。