「お前が口で負けるとはな」


ジェイダの場合、全部が本気だから苦労するのだ。
その点は、キースの気持ちが分からないでもない。
無恥だと馬鹿にされれば、普通人はそれを取り繕う為に不要な言葉を重ねる。
その結果、また突かれやすくなるのだ。

なのに彼女は、唇を噛みながらもそれを認めた上で、臆することなく意見をぶつけてくる。


(揺さぶりが効かない人間は扱いにくいだろ、キース? )


もっとも、ロイ自身も目下のところ苦戦中ではあるが。


「……アルはそれでいいの? 」

「それ、とは? 」


不自然なほど早く、訊ね返される。
ロイは小さく息を吐いた。


「ジェイダに、ここにいてもらわなくて。僕と行けば、二度と会えなくなるかもしれないよ」

「諦めるのか? あいつとは、クルルで別れると」


兄の想いは分かっている。
弟である自分に、バレないとでも思っているのか。


「そういうことじゃない。たとえ一割に満たないとしても、そんなところへ彼女を帰せるのかと言ったんだ」


(“あいつ”なんて、いつから呼び始めた? )


兄がジェイダの名を呼んだのは、いつが初めてだったか。
それほど心を許しておきながら、まだ認めようとはしないのに腹が立ち、いけないとは思いつつ止まらなかった。


「お前らしからぬ発言だな、ロイ。あれほど同盟を望んだ国を、“そんなところ”とは」

「っ……」


兄に指摘され、目を逸らす。

――失言だった。