奥へと進むにつれ、人の数も増えていく。

メイド服を身に纏った、可愛らしい女性達。
要所要所に立たされてるらしい、屈強な男。

その誰もがもの珍しそうに…いや、不審そうにこちらを見ている。


(……そうよね)


分かっていたことなのに。

側にいるロイと同じ、青い瞳。
なのにどうして、こうも委縮してしまうのだろう。


「ジェイダ」


呼ばれたとたん、繋がれていた手を恭しく掲げられた。


「……え……っ」


わざとだろう、ゆっくりな動作に視線が集まる。
そして十分な注目を惹きつけた後、手の甲にロイの唇が触れる。


(な……な……!? )


お伽噺の王子様そのものだ。
お姫様役は、寒そうな恰好の町娘ではあるが。


「何もビクつくことはないよ。前を向いて、ジェイダ」


そんな考えを読んだように、ロイが耳元で囁く。

ロイは正しい。
恐れることも、ましてや卑下することなど何もない。
この身体の全ての色は、ジェイダが異国人だと表している。
ただ、それだけのこと。
そのどこにも、優劣は存在しないのだから。

黒も青もそれぞれが美しく、順位のつけられるものではない。
頭で理解しているし、本心であることに変わりはない。


「……うん」


そう思っているのに、ロイに包まれた手がビクッと跳ねた。


「大丈夫。マロも君が可愛いって言ってる」


いつの間にそこにいたのか、ロイの服の内側からマロがひょっこり顔を出した。


「マロ」


ロイの助けを借り、苦労してジェイダの肩に乗ると、周りを威嚇するようにククッと鳴いた。


「ありがとう、二人とも」


お礼を述べると、ロイが複雑そうに笑って首を傾げた。


「……さ、着いたよ」


ドアを引かれ、大きく深呼吸する。
ジェイダは足を踏み入れた。