翡翠の森


「もう一度申し上げますが、私は反対です」


恋人たちの言い争いにげんなりしたのか、キースが割り込んできた。


「議事にも挙げるとして、そこで反対されてもなお、クルルに行かれるのだとしたら……せめて、祈り子は連れて行くべきです」


ジェイダだって、そのつもりだ。
なのにキースは、拒むことは許さないとでも言いたげである。


「逆に言うならば、彼女なしでクルルに行くなど自殺行為です」

「……それ、キースにとって不都合なの? 面倒なのが減って、いいじゃないか」

「ロイ!! 」


(……そんな言い方、嫌だ)


思わず立ち上がれば、ロイが穏やかに笑う。


「ごめん。自分の命を蔑ろにするつもりはないよ。生きて、この先を見る。当たり前だ」


(なら……そんなに思い詰めた目、しないで)


使命感と悟りに満ちた瞳は、ジェイダの知る同世代の男の子のものとはかけ離れている。


《……って言われてもねえ。説得力なさすぎだよね。ジェイダ? あ、ボク、キミだけに話しかけてるから、普通にしといてね。あの王子様は、ヤキモチ焼きだから》


そう言われて、ついロイの方を見る。
彼の眉がピクリと上がった気がして、慌てて目を伏せた。


《ロイはああ言ってるけど、どうするの? 》

(……絶対、一緒に行く)


キースもマロも、どうしていちいち、確かめてくるのか。


《ロイはまた、怒るかもよ? 》


キャシディと、賭けをした時みたいに。


(それは、ちょっと怖いけど……でも、ロイが何て言ったって、留守番なんて嫌よ)


一人になんかしない。
一緒に戦うと決めたのだ。


(私は一人じゃない。ロイが言ってくれたのよ)


それなら、彼だって一人ではないはずだ。


(私にロイがいてくれるのなら。あなたが一人になりようはないでしょう? )