翡翠の森


『僕は、大マジメだけど』


以前、キャシディにそう言っていたのを思い出す。


ロイは、考えなしの自由奔放な青年ではない。
きっと、考えて考えて……身動きができないくらい、悩んできたのだ。


「ジェイダには、待っていてほしい。いつか、ちゃんと君にプロポーズできるその日の為に。……ね、そんなに待たせないからさ」


ロイの気持ちは、伝わっている。
この身を守ってくれようとしているのだ。

クルルに帰れば、更なる雨乞いを強要されるかもしれない。
マロによればそんなものは効果はないし、そんな力がないことは、自分が一番分かっていても。
それでも応じなければ、上手くいかなければどうなる?
すんなり解放されるとは、思えない。


「ここには、アルもエミリアもジンだっている。だからちょっとだけ、いい子にしててよ。ね? お願い」


ロイ独特の、何とも軽い口調。
けれどもその目は、ジェイダを捕らえて離さない。
甘い視線が、すがるようにこちらを見ていた。


「……無理よ」


(ロイ。分かってて、言ってるでしょう? )


無事を願ってくれるのは嬉しい。
言っても無駄だと知りつつ、甘くねだってくれるのも。


「短い間も待てないほど、寂しい? 」


そうやってからかうフリをして、何とか言いくるめようとしてくれるのも。


「そうね、寂しいわ。だから……一緒に行く」

「……何でこういう時に限って、素直なの。君は」


不満そうなロイであったが、意外にも文句はそれしか出てこない。


「……ま、そう言うだろうと思った。僕だって、自分の婚約者のことくらいお見通しなんだよ。君の気持ちは分かったけど、だからおいで、とは言わないからね」


(私だって、譲る気はないもの)


恋人との応酬に備え、ジェイダは青い瞳を見つめ返した。