しんと静まり返った中、ジェイダはドクドクと鳴る心臓を押さえつけた。
どちらの言い分も、理解できる。
待ちに待った、クルルからの申し出。
ロイにしてみれば、やっとここまで漕ぎ着けたのだ。断るなどと、微塵も考えなかっただろう。
だが、万が一にも彼の身に何かあれば。
ロイ自身は何でもないように言っているが、大きな痛手だ。
(……怖いんだ)
自分の国に、大事な人を招くのだというのに。
こんなにも、怖くて仕方がないなんて。
(クルルだって、いいところだわ。なのに、私は……)
彼が理不尽に傷つけられる可能性を、否定できないでいる。
「それでね。手紙にあったことだけど」
それ以上の反対意見が、出てこないと思ったのか。それとも、反対などさせない為か。
ロイは続けた。
「ああ書かれてはいたけど……僕は、ジェイダをここに置いて行こうと思っている」
(……置いて、いく……? )
それは、どういうことなのか。
単純な言葉であるのに、理解できない。
「な……、そんなこと! 」
キースも同じだったらしいが、ジェイダよりは早く持ち直していた。
「だーってさ。彼女を連れて行けば、十中八九、返せって言われるじゃないか」
場違いなくらいふざけた調子で、ロイはキースに駄々をこねる。
(ロイ……どうして……? )
声も出ないが、何とか彼を見つめる。
「……嫌なんだ。いつかも言ったけど、僕はもう、君を帰せない」
吐かれた甘い台詞に、当然ながら鼓動は早くなる。
けれども今は、きゅっと痛む辛さの方が勝っていた。
「……アルバート様。そのような、おふざけは……」
「おふざけなものか」
その呼び方を訂正することなく、ロイが低く唸る。
いつものような、無邪気な子供を思わせる少し高めの声ではない。
「最初から言っている。僕はいつだって、大真面目だと」
威厳ある男の声に、キースも押し黙るほかなかった。



