(ああ……そうか)
胸のざわめきの原因は、これだったのだ。
「……正気の沙汰とは思えません」
「悪いけど、いたって正気だよ。というか、それしかないと思うけどね」
(ロイならそう言う。ずっとこの日を待ってたんだもの)
「……無茶です! 森に遊びに行くのとは、訳が違う。何かあれば、どうするのです! 」
初めてロイに会った時。
そう、あの森で思ったのだ。
早く帰った方がいい。
見つかったら、大変だと。
「そうだね。楽しい歓迎会、とはいかないかも」
「そうお思いなら……」
「兄さんがいるだろ」
キースが怒鳴ろうとするのを、ロイの低く静かな声が遮る。
「何を心配している? 父が血を残したのは、本来こういう時の為だ。残念ながら、二人しかいないけど……兄さんがいる。昔、お前もそう思ったんじゃないか? ……キース・マクライナー」
心当たりでもあるのか、キースが唇を噛む。
「別に、死にに行くつもりはない。招待しておきながら、同盟国の王子に手をかけるなど愚かすぎる」
「……しかし……私はやはり、反対です。貴方が赴くほどの利があるとは、到底思えない」
(……どうしたらいいの? )
ジェイダも必死に、思考を巡らせる。
クルルが卑怯な真似をするとは思いたくないが、嫌な予感がするのもまた隠しきれない。
「それはそもそも、キースが同盟に興味がないからだ。キースが仕えるのがただの武力国家なら、この椅子に座らせる訳にはいかない」
「……見送る訳にはいかないのですか。現状維持、ということでは」
ロイが一瞬だけ、瞳を閉じた。
そしてすぐに開くと、キースを見据える。
「そしてまた、事態が悪化するのを待つのか。もう何度、同じ歴史を繰り返したか知れないのに」



