てっきり肌や髪の色の違いを言われると思っていたので、何だか拍子抜けだ。
どう見てもデレクは怒っているのだが、彼の気持ちが分からなくもないし、こちらの怒りは萎んでしまう。


「ま、まさか……攫ってきたのではないでしょうな」

「人聞き悪いけど……それが一番簡単な表現だね」

「……そうとしか言えんだろうな」


どうしたって、デレクの視線は居心地悪い。
だが、悪い人ではないのだと思う。
この兄弟の行動があまりに突飛な為、日頃のデレクの気苦労が窺える。


「な……一歩間違えば、国家間の問題に発展しかねませんぞ! 聞けば、クルルは祈り子を立てるほど困窮した状況にあるらしい。そんな時に手をだせば……

「彼女がその、祈り子だった子だよ。可愛いから選ばれちゃったんだろうね。可哀想に」

「ロイ」


アルフレッドやデレクの言うように、自分は平凡な顔立ちだと思う。
デレクを宥める為だろうが、その都度言われたらむず痒い。


「ちょっとごめんよ」


ジェイダの抗議を無視すると、ロイがいきなり後ろからジェイダの両耳を塞いだ。
まるで包み込まれたようで暴れようとしたが、すぐにその理由が分かってしまった。


「……何ですと――!!!! 」


ロイがにっこりと笑った気がしたが、何よりもその大声に驚いて、必要もないのに目まで閉じてしまう。
耳を塞がれてこのボリューム。
ロイとアルフレッドの耳は、大丈夫なのだろうか。


「うるさい。僕らはともかく、ジェイダはそれに慣れてないんだ。びっくりさせないで」

「そんなことを言っている場合ではないでしょう! この娘をどうなさるおつもりで……? 」


そうだ。
一体どうするつもりなんだろう。


「それを今から、彼女に話すんだ。心配しなくても、火種はもうある。……知ってるだろ」


どういうことだ。
庶民のジェイダが知らないだけで、二国の間に何かが起ころうとしているのか。


「でも、その前に」


ジェイダの耳から手を離すと、スッと差し伸べられた。


「おいで。案内するよ」


ゴクリと唾を飲み込むと、恐る恐るその手を取って歩き出した。