何の力もない女。
キースは今も、そう思っているだろう。
少し前までは、ジェイダ自身も同じように感じていた。
だが、それは違う。
武力はなくとも、自分は幸運にも言葉にすることができる。
(冷たいなんて嘘だ。あの綺麗な青い瞳が冷酷だなんて、大嘘だ。白い肌だって、こんなにもあたたかい)
最初は、信じてもらえないのだと思う。
責められることだって、あるに違いない。
それでも絶対に、諦めたりしない。
(エミリア様も、ジンも。アルフレッド、デレクさん、それに……)
ロイ。
(みんな、大好き)
伝えたいのだ。
(私が、そう思えたの。敵だらけだと思ってた、この国で)
必ず、お互いが思い合えることを。
「熱弁をふるわれているところ、大変恐縮ですが」
抑揚のない声に、僅かに苛立ちの色が見える。
「私が今この瞬間に興味があるのは、クルルとの駆け引きです。いや、失礼。新国王の即位と、ご成婚への祝辞でしたか」
「……不謹慎だよ。ジェイダが許しても、僕も同じだとは思うな」
ロイに言われても、キースが鼻白むことはない。
「申し訳ありません。とにかく、内容が気になるのです。気が急いてしまって」
「……いつまでも、ここで話せることではない。行くぞ」
ロイの瞳が、冷たい炎を帯び始める。
いち早く兄は感じとったのか、片手を挙げて弟を制した。
「……っ、お待ち下さい! 」
皆が移動を始めた時、ドアの内側からエミリアが姿を見せた。



