翡翠の森


キースの言うように、何も理解していない自分が、言えたことではないのかもしれないけれど。

だとしても、伝えたいのだ。
勇気を出して。
触れてみて。


「甘い理想かもしれなくても。小娘の妄想だとしても」


ロイは、この国に必要な人物だ。
クルルの町娘が、結ばれる相手ではない。


(婚約者)


そう言ってもらえるのは、すごく嬉しい。
以前言われた、“もっとマシなプロポーズ”とやらも、想像しただけで胸が高鳴る。


(キースさんの思う通り、ただの小娘よ)


このことが終われば――もちろん、いい方に――恐らく、ジェイダは戻るのだ。生まれ育った国、クルルに。


(きっと……)


一人で。


(そうしたら、もうロイには会えないかも)


エミリアのような本物のお姫様と、トスティータを支えることになる。


「それが叶うのを、ロイと一緒に見る。その為に頑張るって決めました。きっと本当は……みんなどこかで、そう思ってるって信じて」


一体誰が傷つきたいと、苦しみたいと思うだろう。
この世界の大半の人は、隣人と仲良くしていたいはずなのだ。そう、口にすることができないだけで。


「ジェイダ……」


(……ロイ、私ね。もし……もし、一人でクルルに戻ることになっても)


トボトボ帰ったりなんか、しない。
あの懐かしい太陽の町に帰ったら、一番に言いたい。


(トスティータの人たちは、優しかったよって)