『いつか《《その時》》が来る。
 使い方はカトレア、お前次第だ。
 だがどうか…
 狂わぬよう自身を見失わないでほしい』

白髪と伸びた髭に茶の和装に羽織を着た男は
中腰になり同じ目線に合わせ
優しく頭を撫でながら悲痛の籠る懇願をする。

それがどういう意味かはわからなかったが
何かとても大切な事を言われているのは理解ができ、『うん』と首を縦に振っている。


【探しているものは、すぐ近くにある】


どこからかそんな声が聞こえた気がして
目が覚めた―――


「お爺様…」

怠い体を起こし窓に目を移すと
カーテン越しでもわかるくらい
外はもう真っ暗。

(おもむろ)にベッドから降り
普段使用している机の引き出しから
小さなアクセサリーボックスを取り出すと
中に入っていたスティックペンダント型のネックレスを手にした。

「…柊さん」

枕元に置いてあったスマホで彼に連絡すると
すぐに繋がり…

「遺産の場所を、思い出しました」

戸惑いも不安もなく
しっかりとした声で伝えた。