名前も身元も明かさないこの男に。
「簡単な話だ。
金を手放して自由になればいい。
大金を手にしているから命を狙われるんだ。
死にたくなきゃ捨てればいいだけの話」
「そんな簡単な話じゃないッ」
食い気味で否定してしまったカトレアに
男は嘲笑う。
「所詮、お前も金に目が眩んだタチか」
「違うッ、そんなんじゃッ」
「じゃぁ聞くが。
どこにあるかもわからない金を
どうして命懸けで守る?」
「そ、それは…」
考えてもみなかった質問に
カトレアは戸惑い答えられなかった。
言葉が詰まり困惑する表情は
男にも伝わり…
「お前はその金を手にして
どうするつもりか考えているのか?」
更に追い討ちを掛ける。
「私はただ…」
探す目的が
『祖父が自分に残した理由と在る場所』
ただそれだけだった彼女にとって
”その先”は未知だ。
「中途半端な覚悟で
金も自分の命も守れると思うのか?」
痛いところを突かれたカトレアは
男の言葉に何も言い返せず
唇を噛んで悔しさを滲ませた。



