こめかみを押さえながら辺りを見回すが
そこに黒谷の姿はない。
「彼は…?」
「殴ったら逃げて行った。
と言っても外に警察が来てるから
出て行った瞬間に捕まったと思うけどな」
「そう…ですか」
ドアの破壊された跡と散らばった木材の破片で
柊が急いで助けに来てくれた事がわかる。
「助けてくれて…
ありがとうございました…」
起こした体を彼の方へ向けると
頭を下げてお礼の言葉を伝えた。
「あと一歩遅かったら死んでたぞ」
「そ、そんなに…?」
"あと一歩"は、それはもうアウトに近い。
それなのに表情を変える事なく怖い事を言われてしまい
想像するだけでゾッとする。
けれど柊にはそんな事どうでも良くて
返事もせず聞き返した。
「それより。
これでお嬢さんも
少しは自分の置かれてる立場がわかったよな?」
「え? 」
「彼氏だっていうあの男が昨日のストーカーで
アンタの金を狙っていたんだ」
カトレアも途中で気付いたが
柊もまた、男の目的を知っていた。



