そんな彼女を
ジッと見つめる柊。
「どうかしました…?」
「…」
「な…んですか…」
あまりに真剣な表情だから
思わずドキッとしてしまい
照れて視線を逸らした。
すると突然、柊はスッと手を伸ばし
何も言わずポンポン…と優しく数回
カトレアの頭を撫でた。
「え…」
「行ってくる」
穏やかな表情で
その一言だけ発して出て行った柊。
彼の行動に
ただただ驚いたカトレア。
そっと自分の胸に手を置いて
心臓の鼓動を聴く。
「どうしてだろ…
凄くドキドキする…」
動悸とは違う
感じた不思議な気持ちに
心が揺れた―――
柊が警察署に戻ってからカトレアは1人
ソファに座り首に掛けていたネックレスを見つめ
思い耽る。
少しずつ思い出してきている祖父と母親の記憶に導かれ、見つけた遺産の10億円。
暗証番号に指紋。
ネックレスを託されたカトレアでなければ開けられない事を知り、現物《かね》を目に前にした時、自分の置かれている状況に恐怖で足が竦んで、流れ込んでくる記憶の数々に耐えきれずに倒れてしまった。



