「さて、本題に移すぞ」

飲み終えたカップをソーサー((受け皿))に戻すと
それが話題を切り替える合図のように
キリっと真剣な表情になる柊。

「はい」

そのスイッチはカトレアも理解し
しっかりと柊の言葉に耳を傾ける。

「”シオン”という男について
 警察の方で詳しく調べているところだけど
 謎が多いんだよな、ヤツは。」

「シオン…」

その名を聞いて
エレベーターで彼が言っていた言葉を思い出す。

「あの人は私の過去について
 『最近知った』と言ってました」

「誰かに聞いたって事か?」

「そう…だと思います。
 でもそれ以上は教えてくれなかった。
 以前にも話したように
 彼は誰かから私と会うのを禁止されていたって…」

「思い出されては困る事、か」
 
腕を組んで考え込む柊。
調べた資料の内容を思い出し
カトレアの言葉との糸を繋ぎ合わせてしまう。

「私の過去に関わる人…」

カトレアも
まだ他に思い出していない記憶があるのかと
それがどんな重要なものなのか
知りたい気持ちと知る恐怖の狭間で揺れていた。