私しか、知らないで…


「車なの?」



アイスコーヒーを持って紫苑がついて来た



「送ろうか?駅?」



「電車だけど
それならマンションまで送ってよ」



紫苑が助手席に乗った



「亜南が、あ、亜南くんが車乗れるなんてね」



「亜南くんて…
オレももぉ30近いから…

で、どっち?
マンションまでナビしてよ」



出会ったのは18だった



「じゃあ、私は30過ぎてるってことだね

ずっと考えないで生きてた

ずっと何してたんだろ…私

いつまでも若いと思ってたら
もぉこんな歳になってる

あ、次の信号右ね」



ナビを勝手にセットしながら紫苑が言った



相変わらずだな紫苑



まだ直視できてないけど
こんな歳になっても綺麗だった



笑い方も話し方も変わらない



マンションて結婚とかしたのかな?
子供いるとか?



「ん?花束?
愛の告白でもするの?
もしかして、プロポーズとか?」



車の後部座席にある花束を見つけて

紫苑が言った



「いや、今日、卒業式だったんだ
オレ、高校の教師やってるんだ」



「へー…亜南も立派になったね
教師って、生物?」



「うん、アタリ」



「それしかないよね」



「ないかもね

それより
今どき、花束渡してプロポーズとかいるの?」



「いるよー!
インスタで見たことある
…けど、この歳になると
どんな形でもプロポーズは嬉しいだろうな」



て、ことは…



「まだ、結婚してないの?」



「うん、してない
残念でした!」



残念でした!なのかな?

よくわからない



「今、付き合ってる人からは
プロポーズの予定ないの?」



「フフフ…
それ、聞く?」



「別に、聞かなくてもいいけど…」



「じゃあ、亜南くんに特別教える!

今日、別れた

さっき、別れたの」



答えと声のトーンが合ってなかった



「へー…それで酔ってるんだ」



「私、酔ってないよ」



そう言って紫苑は真っ直ぐ前を見て黙った



運転してるから顔はよく見れないけど

…泣いてる?



ナビの案内と

カチカチカチ…

ウインカーの音が鳴り響く



「次、右…」


カチカチカチ…



「ありがと、ここでいい」



さっきのコンビニから20分ぐらい車を走らせた



「大丈夫?
歩けるの?
酔ってないんだっけ?」



「うん…大丈夫…
お酒飲んでないもん
歩けるよ」



「うん、じゃあ、気を付けてね」



「うん…じゃあ、ね…」



バタン…



次の約束はなかった



もぉきっと会わないね

オレたち