私しか、知らないで…


当たり前になっていたことが

当たり前じゃなかった



「ねぇ…亜南
あのね…

あのね、会社の上司の人に
誘われちゃった

私たちって、付き合ってなかったよね?」



「え…」



「亜南、好きって言ってくれたけど
付き合ってなかったよね?私たち」



「え…うん…
付き合ってなか…った」



オレたちは

付き合ってなかったのか…


確かな約束はなかった


そして

もぉ遅いのかな?


これから付き合ってほしいって言っても


好きなのに

もぉ遅いのかな?



「だよね…
じゃあ、別にいいよね」



「ん…」



オレはそう言うしかなかった



「亜南、好きになってくれて、ありがと

私も好きだったよ」



それなら

なんで?

なんでオレじゃダメだったの?



付き合おうって言葉がいるなんて知らなかった



言ってたら

オレのものになってたの?



そんなこと言ったって

もぉ遅いか…



紫苑の両手がオレの頬を包んだ



ご褒美?



それはもぉなくて…



「さよなら、亜南

元気でね」



オレの頬から両手が離れて

オレの前から紫苑はいなくなった



夏になる前だった



水槽の音を聞きながら

2、3日過ごした