依存していい人じゃない。ぐるぐるとめぐって、答えが出ないまま、花岡の背中に、腕を回していた。


「す、こしだけ……、抱き着いていて、いいですか」


おかしなことを言っているかもしれない。答えはなかった。だけれど、ゆるすように、つよく抱かれて、勝手に安堵してしまう。


右耳をあつい胸に触れさせてみる。その鼓動は、どんな音だっただろう。聞いてみたかった。きっと問いかけても、花岡は知らないと言うのだろう。

リズムとか、高さとか、もしも聞こえていたのなら、必死になって耳の奥に刻み付けようとしていたに違いない。何も聞こえないくせに、何かが聞こえたような気がする。


「花岡さんの、拍動が知りたいです」

「お前はいつも突拍子がない」

「変拍子の曲が、けっこう好きなんです」

「それは知ってる」


知られていたのか。私が思う以上に花岡は私のことをよく知っているのだろう。笑ってしまった。くすくすと笑っていれば、少し明るい声が左耳に触れる。


「『春の祭典』なんか、すきだろ?」

「えっ、どうしてそれを……」

「好きそうだ」


どういう意味だろう。

気になって体を起こそうとしたら、つよい指先に阻まれて、結局ぴったりと寄り添ったままになってしまった。