花岡は、これからもずっと、私が目覚めるたび、誰よりも大切そうに抱きしめてくれるだろうか。それだけで、眠ることを少しだけ好きになれるかもしれない。


「疲れてないか」

「は、い」

「そうか」

「はい」

「眠れないのか」

「……はい」


やさしいペースで問いかけられる。まるでその答えがどんなに間違いだらけでも、花岡は「そうか」と言って、今みたいに髪の毛にやさしく触れてくれていただろう。信じてしまいたくなるあたたかさだ。


「すこし、眠れそうか」

「……いや、です」


蚊の鳴くような声だったのかもしれない。口には出したくなくて、けれどそれが、なによりも私の心に沿った回答だった。


もう、眠りたくはない。

そのうち、半分どころか、私は全部が死んでしまいそうな気がする。とてもおそろしい夢だ。もしかしたら聞こえていないだけで、私は叫んでいるかもしれない。

わからないから怖い。私が怖い。

善意でたくさんの期待を寄せてくれている人たちを、心の中で殺人兵器のように扱っている己のみにくさに震えあがった。


「わかった。それじゃあ飯にするか」


すべてを含んで、包み隠した。花岡が囁いた声に、鼻の奥がくるしく痛む。この人には迷惑をかけたくないと思う。でも、同じくらい、そばに在ってほしいと思っている。