ぐちゃぐちゃに書き殴った紙が滲んでいる。

汗がこびりついてしまったのだろう。今更近くに置かれていたティッシュで拭って、新しいページを開いた。

何か、何かを書こう。ほとんど脅されているような感覚で、必死に五線譜を思い浮かべる。上滑りする音符を強引に手繰り寄せて、拙い音を作り上げる。

悲鳴を上げている気がした。何かが叫んでいる。すばらしい音楽家が書いたような美しい、差し迫るメロディなんかじゃない。ただの獣の咆哮のような、みにくい音だ。


書いてはぐちゃぐちゃと丸めて、ゴミ箱に捨てる。もう一度。もう一度。何度も繰り返して、世界が白んでいることすらも無視して向き合っていた。いや、逃げていたと言ったほうが正確だ。

とにかく、ひたすらそれを続けて、納得など訪れないうちに肩を掴まれた。


「っ、ひ」

「藤堂」


耳に声が触れた。そのやさしさで、もうずっと、私の中からすべての音が消えてしまっていたことに気づく。

妄想のようなメロディラインは、いつの間にか四方八方に散らばっている。部屋をぐちゃぐちゃの紙で汚した私を見たその人――花岡は、すこしだけ、痛みをこらえるように眉をゆがめた。


「藤堂、ずっと起きてたのか」

「え……、あ」