やさしいベッドで半分死にたい【完】

せめて、花岡に触れられたやさしい熱を思い出したくて、右耳に髪をかけてみるけれど、その指先のあたたかささえも、再現することはできずに零れ落ちる。


途絶えそうな意識の中、ペンを握りしめている自分が滑稽だと思った。

夜は滑る。


どのくらいの時間で夢に落ちたのだろう。机の上で眠っていたはずが、いつの間にベッドの中に入り込んでいるようだった。

すでに夢とわかる。そのベッドは、いつも私の部屋でぐしゃぐしゃになったまま、置き去りにされている。

久々のやわらかさで眠ってしまったのだろう。夢の中の私を考察して、上からじっくりと見下ろしているような気分だった。


誰かが当然に私の右耳に触れた。その様を、見つめているだけで吐き気がする。

どうして、その男ではだめなのだろう。

その人も私と真剣に向き合ってくれる人だ。間違いなくそうなのだとただしく理解している。

期待されていることもわかっている。その分、いくつも要求してくる。人の心の中にある素晴らしさを具現化するのは、とても難しいのだと思う。

とくに、音楽とはそういうものだ。言語化できないから音となって人の心に寄り添っているだろうに、生み出すときにはどうしても言葉が必要になる。

懸命に縋りついているつもりで、いつもその人の言葉に触れることが恐ろしかった。