どこまでもやさしく、あまく囁いた。そのまま、私の瞳を覗き込んでくれる。
やわらかな目の奥に、狼狽えた自分がいる気がした。
こんなにもまっすぐに向かってきてくれている人に対して、私はどうしてこんなにもひどい仕打ちをできるのだろう。
嘘をついてはいけない。
両親に、わずかに教えられたことの一つだ。それさえも守れないでいる。
何一つ言葉を返せないまま、花岡の瞳に映るやさしい光を見つめていた。とろけてしまいそうに微笑んで、髪を耳にかけてくれる。そのやさしさだけを覚えていたい。おかしなことを思ってしまった。
「都心まで出る。また眠っていていい」
「いえ、起きています」
「そうか?」
「はい。南朋さんのこと、見つめています」
「……へえ」
もう、残り僅かになってしまうだろうから、とは言えなかった。
きっと、そうなってほしくない下心だったと思う。汚い心を押し隠して俯けば、花岡の吐息が耳元に触れた。
「なんだ、積極的だと思ったら、もう恥ずかしくなったのか」
「はな」
「かわいいな」
そっと誑かすようにたっぷりと甘く囁いた。
今度こそ陥落させるつもりで言ったのだろう。気づいて顔を上げれば、ただうれしそうに微笑んでいる人と目が合ってしまった。


