「私と一緒には、使いたくないですか」
間違いなく、折れてくれそうな言い方をした私に、花岡が目を見張っていた。すこし驚かれたらしい。
私だって、これくらい言える。なぜかむっとして見つめてみれば、花岡の目がやさしく歪んだ。
「願ってもない誘いだな」
「はな、」
「もっと寄れ」
さらりと片腕が私の肩に回されている。近くに寄るように言いながら、すでにぐっと花岡の胸に背中を押し付けられていた。
雨音は、聞こえているだろうか。
きっと、私の耳がどんなに正常に機能していたとしても、花岡の言葉以外は、何一つ私の耳に触れていなかっただろう。雨が全てを忘れさせてくれる。
「すこし、雨宿りしていくか」
「は、い」
熱に浮かされたような心地で頷いた。耳元に熱が触れる。
うまく答えられない私を、笑っているのだろう。恨めしい気分で、斜め上にある花岡の表情を見上げる。どこまでもやさしく私を見つめているから、途方に暮れてしまった。
「からかってますか」
「惚れてるだけだ」
あっさりと返されて、とうとう言葉が続かなくなってしまった。黙り込んだ私を一瞥した男が、私の肩に力を入れて、止まってしまっていた歩みを再開させてくれる。


