いやあんたのせいだわ!
今度は頭の中で叫んだ。二の舞は演じない。
「俺、戸山に書いて欲しいもんがあって」
「……書いて欲しい、もの……?」
ぐぴり、一口分の水を飲み込んで、来栖へと視線を向ける。
何やら真剣な面持ちで、こくりと小さく頷いた来栖は、水を取ったときと同じ要領で、サイドボードに置かれていただろう紙を手に取って、それを私へと差し出した。
「俺はもう、書いてるから」
次いで、ボールペンも差し出してきた。
「……は?」
ぺらり、ふたつ折りにされたそれを開けば、向かって左の上部に茶色で印字されている【婚姻届】の三文字。かちりとノック式のそれを鳴らして、「書いて」とボールペンを握らせようとしてくるこの男が言ったように、【夫になる人】の欄には来栖清武とはっきり記されていた。
「……は?」
「結婚しよう、戸山」
無論、それだけではなく、本籍を書く欄も【夫になる人】の方は埋まっている。
「……は?」
ただ、それよりも何よりも謎なのは、紙の右側、【証人】の欄に母の名前があることだった。



