うるさい。今さら。何なの。馬鹿なの。ふざけんな。くそったれ。触んないで。変態。等々、出るわ出るわ、罵倒のオンパレード。
ぐすぐすと涙声で、しかも、密着しているこの距離でも聞き取れないかもしれないような声量で、思い付いたことを順次放っていく。
「……うん、ごめんな、」
あやすかのように、するりと背中を撫でられて、ひくり、喉が震えた。
謝るなよと思ったが最後、頭の中の罵倒は途切れて、声もひゅるりと静まる。
う、うう。
そんな風に唸れば、泣き止んだとでも思ったのか、来栖はほんの少しだけ身体を動かして、私達の間に隙間を作った。
「心咲」
「……っ、う、」
「もう一回……もう一回だけ、俺を心咲の特別にしてくれねぇか」
少しだけかさついた指先に、すり、と撫でられた頬。ぐしりとその親指が、マスカラやらアイラインやらが滲んでぐちゃぐちゃだろう左側の目尻を拭う。
まるで、大切なものを扱うかのように触れるものだから、何を言われようとも吐き出すつもりだった有無を言わせないくらいの拒絶の言葉は、喉の奥へと引っ込んでしまった。
「っ……む、り……だっ、て、こわ……っ怖い、もん、」
「……何が?」
「もっ、もう、あんな、み、じめな、思い、した……っ、く、ない」
代わりに、ひぇっぐ、と自分でもひくぐらいにはそこそこ汚い声がもれた。



