いつからこんなに勉強が苦手になったんだろうか。
昔は両親に褒められたくて、ものすごく頑張っていたのにな。


「あんたねぇ、勉強してないからこんなに点数が低いのよ!こんな点数じゃ高校通えないわよ!?どうするのよ、働くの!?」

僕のお母さんはいつもこんなふうに怒鳴る。
お父さんが出ていってからというもの、お母さんはかなりおかしくなった。
昔の優しかったお母さんはもうどこにもいない。
ものすごくヒステリーな親になったから、手当たり次第に近くにあるものを投げつけてくる。

僕は、
「いちいち言わないでよ。うるさいなぁ、勉強はしてるってば。頭悪い=勉強してない、みたいな考えやめてよ」
反論する。
僕だって勉強してるのに。
睡眠時間をけずってまで勉強してるのに。
どうして大人は『努力が足りない』って言うような言い方をするんだろう。

「反論するの!?お母さんはあなたのためを思って言ってるのよ!?」
「だから、それが迷惑だって言ってるの。だれも心配してなんて言ってないじゃん」

お母さんの顔がみるみるうちに怒りで赤くなっていく。
刹那、僕の頬に痛みが走った。
平手で、叩かれたのだ。

「何をどう間違ったらそんな子供に育つのよ!?お母さんはあんたをそんなふうに育てた覚えはないわ!!」

そこで、僕の中の何かが切れた気がした。

「そうだよね。お母さんは僕になんにもしてくれなかった」

僕は静かにそう呟いたあと、思い切り息を吸って大きな声で叫ぶ。

「大人は結局結果しか見てくれないんだ!どんなに僕が頑張ったって、どんなに僕が努力したって!そんなのはどうでもいいんだ!子供が自分の思い通りにならなきゃ楽しくないもんな!!もう……もうこんなのうんざりだ!!」

僕は床に放り出したかばんをひったくるように乱暴に掴んで家を飛び出した。

「葵!?待ちなさい、葵!」

お母さんの声も無視してただひたすらに走る。全部嫌だ、全部嫌いだ。

自分勝手な大人も、綺麗事しか言わない教師も。





わがままな僕だって、みんな嫌いだ。