午前中の授業が終わった昼休み


堅苦しい教室から解放されて生徒が賑わっている裏庭は少し騒がしかった

ちょいちょいとお弁当箱をつつかれて、隣を見ると、菜留がサンドイッチをモグモグしながらホークをこちらに向けていた

「羽華、トマト食べる?」

「いるー」

菜留にトマトを食べさせて貰って、辺りをキョロキョロと見渡す

最近は暖かいから、裏庭で食べるのがお気に入りになっている

それは他の人達も同じ


しかも、裏庭からは、

「九条先輩だぁ!」
「わー、今日いいことあるかもぉ」

女子の皆さん、ナイスです
そう、ここからは先輩の教室がよく見えるの


「ちょっ、羽華!卵焼き落ちそうだよっ」

「わわっ」

もちろんここからは、先輩がよく見えて、つい上を見ながら食べてしまう

そんな私を見ていた菜留にホークの尖っていない方で、おでこをつつかれる


「先輩のこと好きなのはいいけど」

「うん」

「…あんまり、本気にならない方がいいと思うよ」

いきなり真剣な顔で言から、ツキリと胸が痛んでしまう


うん、わかってる



菜留はやさしいなぁ

「…うん、そうなんだけどね」

視線を空に向けて呟やく


知ってるんだ、先輩のことが好きな子はたくさんいて、その分、ふられちゃった子がたくさんいることも知ってる



でも、きっと菜留が言ってくれたのは
その事だけじゃない


「先輩が、誰かを好きでも、そのときまでは
 好きでいたいんだ」

私の目線の先


そこには先輩と


もう一人



先輩の元彼女  月野先輩



美男美女ってこの2人のことだよなぁ

2人は、私が入学する前、1年生の時に付き合っていて、私が入学する時には、すでに別れてしまっていた後だった

それでも、その後もこうして仲良く喋っているのをよくみる

ふったのは、月野先輩だとか


先輩が仲良くしている、唯一の女の子


「…いいなぁ」

「羽華…」

「!いやいやっ、先輩には十分仲良くしてもらってるよっ、ほんと、これだけで、」


あ……菜留に心配かけちゃうっ


なんとなく、先輩はまだ月野先輩が好きなのかなって思ってるんだ

告白を断る時必ず


「好きな子がいるから」って断る先輩


告白を断る時には、みんながよく使う言葉なのかもしれない


けど、もし、本当なら、そう考えられるのは月野先輩ぐらいしか思い付かないから

めったに笑わない九条先輩

今はわずかに笑っているように見える


ズキン  ズキン



重たく胸に響く



視界の中に二人の姿が入ると苦しくなる


それでも、私は先輩が幸せになるその時まで
好きでいるって決めたんだ