色めき立っていた女子生徒もこれには流石に黙ってしまって…


先輩の鋭い視線が女子生徒を一周すると、全員青ざめた顔で一歩後ろに下がった


先輩達の周りに少しだけ道ができる

だけど、ある程度の距離を保ち、九条先輩から離れようとはしない


隣で様子を見ていた如月先輩は、ニコニコしながら九条先輩の肩を叩いた

「ふはっ!!湊、お前まじでその顔もったいねーよ」

如月先輩は笑いを堪えるのに必死

そんな如月先輩を無視して靴を履きかえようとしている九条先輩

「邪魔、靴取れない」

靴箱の前に立っていた女子生徒に冷たい声と視線で威嚇している

んん!?そうだ!

!!靴箱あけた?
今日は先輩も驚くサプライズを仕掛けておいたんです!



「………」

気づいた かな?
手元を見つめたまま固まる九条先輩

横から如月先輩がひょこっと顔を出す

「ん?湊、それ手紙?」

ふふふ、そう、先輩の靴箱に、手紙をいれておいたの!

昨日夜遅くまで何度も書き直して、やっと完成した手紙、さすがの先輩も喜んで…


…グシャリ


「ちょっとおおおおおお!」

「あ!羽華ちゃんだ!おはよー」

「如月先輩、おはようございます!…じゃなくて、九条先輩!何ですかっ、グシャリって!」

「…ゴミがはいってたから」

「ごっ?!ゴミじゃないですよっ、てーがーみー!私からの!読んでくださいよ!」

「だから捨てたんだけど…」

「泣きますよ?」


これが、私、柚木羽華の日課なんです



九条先輩の手からグシャグシャになった手紙を取りあげる

「もう、グシャグシャじゃないですか」

「そうだね、なんでだろう」

この人は本当に…

一度もこちらを見ない先輩

今は遠くの方をぼおっと見つめている

私が腕をしっかり捕まえてあるから動けていないけど

「羽華ちゃん!俺と遊びに行こ?」
いつもの調子で隣で騒いでいる如月先輩は放っておく


「九条先輩、じゃあ口で言いますね?」


チラッとこちらを向く九条先輩



「好きです、つきあっ…」

「ごめんなさい」

「まだ最後まで言ってません!」


スタスタと如月先輩を引きずって階段を上がっていく先輩

「ちょ、湊離せよっ!羽華ちゃーん、また来てねー!!」

如月先輩は引きずられながら、こちらにブンブンとてを振ってくれている

九条先輩の引っ張りかたが雑なので、途中壁にぶつかって湊先輩に抗議しているのが見えた



どこか無気力な王子



今日も私の声はきっと届いていないけど


「また、会いに行きまーす!」


遠くなった背中に声を掛ける

観念して、私のことを早く見てくださいっ!


それまで、何度でも伝えに行きますから