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────バンッ!!……

勢いよく閉められたドアは、彼が走り去っていった衝撃でしばらく震えていた

「湊くんが走ってる……笑」

もう、彼の変わりようには笑わずにはいられない

私と付き合っていた時、こんなに必死になってくれたことがあったのだろうか?

……きっと無かったろうなぁ


どんなことにも無気力で、興味がなくて

毎日をつまらなそうな顔で過ごしていた湊くん


そんな、彼が。


やっと出会えて、見つけた、たった一人の女の子の為に走っていったんだ


彼を変えたのは間違いなく彼女だ


「私じゃ、駄目だったんだよなぁ」


虚しく、小さな声で囁けば、無駄に広い美術室だったのであろう、誰もいないこの教室に響いた



本当は、もうよかったの



こんな恋もあるよねって、過去の思い出にしてたから


でも、彼のとなりに並ぶ彼女を見て、知りたくなったから


彼がようやく出会えた、“太陽”に






───────…………


『……私ね、自分の声がすごく嫌いなの』

『なんで?』

『だって、なんかキンキンしてて、それに、聞き取りづらいって、よく言われるし…』

『あー、わかった。先輩にフラれた理由、それだと思ってるんでしょ?』

『……別にぃ』

『まぁ、その間延びした喋り方は俺も嫌いだけど』

『えー、可愛いよぉ!それに、紗夜っぽいよぉ!』

『んじゃ、いいんじゃないの?』

『え?』

『“紗夜”っぽくて、気に入ってるんでしょ?それが一番なんじゃない?』


───その時の君の笑顔が忘れられない


───珍しく人間らしく笑ったのも


───ぜんぶ、ぜんぶ、私のものにしたかったの



───────…………



「……ありがとう」

湊くんを変えたのは蜂蜜ちゃんだったけど


私を見つけてくれたのは湊くんだったよ



今日、会いに来てよかった


湊くんをからかいたかったていうのも、もちろんあるけれど





────『好きになってくれてありがとう』



この言葉だけで、もう充分だよ


彼は、私が思っていたよりも重く、私の事に責任を感じていたのかもしれない


“想って”いてくれたのかもしれない



ありがとう。

あなたとの恋は、苦しいことの方が多かったかもしれない



たくさんの人を傷つけてしまった。後悔だってある


湊くんの居場所を奪ったことをこんなにも後悔する日がくるなんて


ごめんねなのは、私の方だよ


けれど、確かに私のあの日々を彩っていいたのは、湊くんそのものだったから

 


「蜂蜜ちゃんは、苦労するだろうなぁ……ふふっ!」





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