「……いつまでひっついてんの?」

「うぅっ!いたーいっ」

俺の腕に纏わり付いていた紗夜の頭を掴み強引にひっぺがす

本人は、頭を擦りながら口を尖らせ、俺を見上げているが、心底どうでもよかった



羽華が泣いた



羽華を泣かせた



その事が頭を支配して、俺を動けなくした



追いかけていいの?

また、いつものように傷つけるだけなんじゃないの?



いつも笑顔の羽華


俺がどんだけ冷たくしてもずっとずっと笑ってたのに


泣いたんだ



……いや、本当はいつも泣いていたのかもしれない


誰にも気づかない所で、俺が気づかないだけで、泣いてたんだ





最低、最悪




どんだけ無神経だったんだ



「……はぁぁっ」

「ぷっ!、あははははっ!!」


俺が床に座り、ため息を吐けば、口元に手を当てて愉快そうにこちらを見て爆笑し始めた紗夜


……こいつ、本当に癪に触るんだけど

笑い転げる紗夜を睨んでいると、今度はニヤリと笑って俺を見上げた


「湊くんのテンパる顔、最高だね」

してやったり顔で笑う紗夜に、またイライラする

こいつ、こんなにムカつく奴だったっけ?


「……あの頃は毎日つまんなそうだったのにね」

「ん?何て言った?」

「んーん?なんも」

「はぁぁっ、ホントお前いい性格してる」

頭を抱えて項垂れればまた楽しそうにクツクツと笑った


「あー、楽しかった!もう十分楽しんだし、ほら、蜂蜜ちゃんのこと追っかけていいよ?」

「言われなくても、行く」

「ふふっ、…じゃあね、…あ、裕くんにも会いに行こうかなぁ、折角だし」


俺の焦る気持ちなんて微塵もわかっていない様子で、呑気に顎に手を当てて天井を見上げる素振りをしている

「止めておいた方がいーよ。裕、紗夜のこと本気で嫌いだから」

「えー笑、傷ついたぁ!!」

ちっとも傷ついていない様子で笑っているので、今度こそ紗夜に背中を向けて教室を出た

いつぶりか覚えていないほど、全力で走る

その度に古い旧校舎の床が苦しい音を立てて泣いた


羽華に会えたら


始めになんて言おう



とにかく、






羽華に会いたい