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ガヤガヤと耳に障る生徒の声

休憩室、といっても教室の隅にカーテンで作った空きスペースだから、全然プライバシーが尊重されていない空間で少し休む

思ったよりも混むな…

半日も女の色んな香水の匂いに巻かれて気分が悪いんだけど…

ネクタイを緩めながら、カーテンの隙間から教室を覗けば裕が女に囲まれてマジックを披露している所だった


裕は楽しそうに働きまくってるけど……俺はもう帰りたい


置いてあった冷たいおしぼりを瞼の上に乗せて椅子に体重を掛けた



『紗夜さん、今日ですよね?』

躊躇いがちに目を伏せて、震えた声

羽華の揺れる茶色の瞳を思い出して溜め息を吐いた


羽華が心配してくれているのは凄く伝わってくる

だから、言えない

だって、昔の元彼女の話だよ?

いくら、俺が紗夜のこと好きじゃなかったからって、付き合ってたことに代わりはないし…

普通、嫌じゃん?

まあ、羽華は普通じゃないけど……


羽華が特別


気づいて、飲み込めば、その気持ちはすんなりと、しっくりと心のスペースに収まって、あるべき所にあるって感じ

それぐらい、俺の中に羽華の定位置が出来てたってことなんだろうな


『ニブニブにぶ王子~!恋愛初心者王子~』

裕が俺の前で嫌な歌を歌っていたのを思い出した

羽華に知られたら、裕と一緒に歌ってちゃかしてきそう……怖…