♡♡♡

「え、どしたの」

帰ってきた私達の顔を見て心配そうな表情を浮かべた菜留

「なんか、ヤベー女に会った」

「え、なにそれ、スケベな?」

「いや、化け物」

会話にならない会話をし始めた二人を見ながら、さっきの紗夜さんの伝言をどうしようか考えた

伝えなきゃ、だよね

いきなり紗夜さんが現れたら、先輩もきっと驚くだろうし…

二人が喋ってる隙をついて、先輩の教室に向かった

いつもなら楽しみでドキドキルンルンする心もなんだか今はバクバクビクビクって感じだなあ

いつもは長く感じる道も、あっという間に先輩の教室の前に着いてしまった

教室の前で固まる

ど、どうしよう

え、私、紗夜さんに会って伝言頼まれちゃいましたーって言うの?

さっきの空気の中?

ひいいいいっ!!

心の中でグルグルしていたら、目の前の扉が開いた

「「!!」」

驚いたのは私だけじゃなくて、目の前に立った、…湊先輩もだった

「あ、えっと」

とりあえず撤退しよう!

先輩に背中を向けて帰ろうとした時、

「!?」

くいっと後ろに引っ張られてあっという間に教室の中

教室は静かで、誰もいない

えええ、裕先輩はいないの!?こんな時に!

私を包む腕から逃れようと体を動かすが、動けない

抜けようとすればするほど強くなる力に戸惑う

バクバクする心臓を落ち着かせながら先輩を見上げる

「え、先輩?」


苦しそうに顔を歪めている先輩に驚いた

そっと両手で頬に触れる

触れると同時に揺れる睫毛


「……ごめん」


私と視線を合わせると切なげにそんな風に言うから、

「お、おごっでないんでずがあああ」

「え、ちょ、泣かないで」

先輩の腕の中で号泣した

私が泣いている間頭を優しく撫でてくれる先輩

良かったいつもの先輩だ…

私が泣き止むと、何かを言うか言わないか迷うように視線を彷徨わせて口を開いた先輩


「ごめん、……洸に抱きつかれてるのにムカついた」

「へ?」


洸くんなこと?…いつもの事なのに

先輩だっていつもなら気にしないのに

どうして?いきなり

頬を染めて謝る先輩に手を伸ばして聞こうとした時、


「みーなとっ!!ジュース買ってきたから元気出せー」

突然開いたドアに三人共固まった

スキップしながら入ってきた裕先輩に至ってはみるみるニヤニヤと顔を歪めていく

「ひゃああ!邪魔しちゃった?ごめんごめん、ささ気にせず続けて?見てるから」

「なんで見るんですか……裕先輩」

「はあああっ」

溜め息と同時に私の肩に頭を乗せて潰れた湊先輩

柔らかい髪がくすぐったい

「それで?素直になれたのかな、湊くんは」

「そうなんですよ!先輩、なんだかしおらしくって、え、これ大丈夫なんですかね?」

「羽華もういい、黙って座って」

ポンポンと自分の足を叩く先輩

「え、無理です!だって先輩の膝の上なんて!弱々しくて折れちゃいそう!」

「いつも座ってるでしょ」

「そうなのかい!?!」

食い付きのいい裕先輩を無視して私を膝の上に乗せた湊先輩

そのままぎゅーっと後ろから抱きついてきた

え、なに

傷心なの?先輩

こんな弱々しい先輩にさっきのこと伝えて大丈夫?

でも、伝えなくちゃだよね…

「湊、先輩」

「ん」

「紗夜さんに会いました」

「は」「え」

私の言葉に二人同時に反応するから思わずビクついてしまう

いや、そうなりますよね…

「さっき、買い出しに行った時、会ったんです……学校祭の時、会いに来るって言ってました」

「……そう」

「……あの女」

裕先輩がダントツ怖い

もうやだ

後ろから回されてる湊先輩の腕に触れる

「先輩、なんなら私追い払いますよ!それとも追いかけ回しちゃいますか?」

「いや、やめて」

体が揺れるから、先輩が笑っているとわかった

よかった

あまり衝撃は受けてないみたい

「…会うよ、会ってくる」

私の方が衝撃を受けた

湊先輩が超絶美女に会うなんて心配でたまらない

いや、心配なのはそこだけじゃないんだけども

「まあ、湊が言うなら」

裕先輩も心配そうに眉を潜めてる

うううっ、止めて欲しいような欲しくないような

複雑な気持ちでグルグルしていたら、回された腕に力がこもり、触れていた手に先輩の大きな手が重なった

「会ってくるから、そしたら……その後、俺と一緒に遊んでくれる?」

「え、え!!」

これは!学校祭のお誘い!先輩からの!

「嫌?」

「行きます!絶対っ」

「ん」

嬉しそうに微笑んで私を膝の上から下ろしてくれた先輩

「はい、じゃあ実行委員頑張ってきて」

「わかりました!全力で最高の学校祭にしてきますね!」

ドアに寄りかかって私に手を振ってくれる先輩

もちろん裕先輩もニコニコして見送ってくれた

感情の上下が激しい今日

この後、泣いている洸くんを励ましながら、菜留に本気で怒られた