私もその後ろを黙って歩いた

先輩のことを考えながら…



「あ、蜂蜜ちゃん」


洸くんに繋がれた手とは反対の手を後ろから引かれて立ち止まった

「え?」

「私!……覚えてない?」

振り向いて視線を上げれば、サラサラの黒髪から香る甘い香水

大きな瞳が私を見つめていた

「あ……紗夜さん」

「ふふ、嬉しい」

頬を赤らめて笑う紗夜さんに違和感を覚えた

だって、湊先輩から聞いた紗夜さんのイメージが強力すぎて少し怖くなった

固まる私を見て洸くんが後ろから手を引いてくれた

「羽華、誰?」

「えっと、」

「えー?彼氏くんかな?ふふ、可愛い顔してるんだねえ」

洸くんをしなだめるよう下から上まで見ると、優しく笑った

洸くんの私を掴む手が強くなった

「羽華帰ろ」

「うん、えっと、じゃあ」

「待って」

私達を引き留めた紗夜さんは、目の前にあったカフェを指差した

「お茶しましょ?」

にいっと笑った紗夜さんに二人でゾッとした

洸くんと顔を見合わせて固まる

「すみません、俺達急いでるから」

「じゃあ、ここで」

「え?」

私達の返事を待たずに話し始める紗夜さんに、洸くんが私の前に立った

「ふふ、私そんなにヤバい子に見える?」

失礼しちゃう

楽しそうに笑いながらこちらに近づいてきた

「ねえ、湊のこと好きでしょ?羽華ちゃん」

名前…っと思ったけれどさっきから洸くんが私のことを呼んでいたのを思い出した

一瞬焦った

「好きですよ、めちゃめちゃ振られまくってますけど」

そう言って笑えば、紗夜さんは一瞬目を見開いて大きな声で笑った

「あははっ!やっぱり!あの人は人のこと好きになれないんだもん!感情も、心もわからない冷酷人間。……ねえ教えてあげる、中学の湊のこと、」

「あんたっ!!」
「聞きません」

洸くんの怒った声と私の声が重なった

湊先輩のことで怒るなんて、やっぱり洸くんも本当は湊先輩のことを大切に思ってるんだなだて少し嬉しくなった

「…どうして、聞いてくれないの?」

笑顔のまま私を見てくる紗夜さんは怖い

でも、

「私は、私が湊先輩から聞いたことしか信じません。紗夜さんが湊先輩を本当に好きだったんなら先輩を悪く言うことは止めてください。
……許しません」

先輩の中学の時の事なんて、私が先輩に初めて会った瞬間だけでもう十分

あの優しい先輩が私が見てきた湊先輩だから

「あなたは悪い人です!」

私が大きな声でそう言うと、驚いたように表情を崩した紗夜さん

何かを考えるように間が空くと、次の瞬間には、笑顔に戻っていた

「伝えておいて?…学校祭の日会いに行くねって」

フワリと微笑むと背を向けて行ってしまった紗夜さん

「こ、怖かったな、なんか」

「う、うん早く帰りたい」

「羽華……気にしない方がいいよ」

洸くんがそう言ってくれたけど、どこか晴れない心も、先輩のさっきの態度も私の気分を落ち込ませた